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しるしを通して主が共に働く―主の昇天B年

ヨハネ・ボスコ 林 大樹

  マルコによる福音16章15−20節

 今日の福音の構成(直訳)
15節 それからイエスは彼らに言われた。
   「全世界行って
    福音を宣べ伝えなさいすべての被造物に
16節 信じて洗礼を受ける者は救われるが、
    信じない者は滅びの宣告を受ける。
17節 しるしが信じる者すべてに伴う
    わたしの名において悪霊を追い出す、
    新しい舌で語る、
18節 手で蛇をつかみ、
    毒を飲んでも、決して害を受けない、
    病人の上に手を置けば、治る」。
     19節 主イエスは彼らに語った後、
         天に上げられ、神の右に着かれた。
20節 一方、彼らは出て行き
    宣べ伝えた至るところに
    主は共に働き、
    言葉が真実であるのを示した、伴うしるしによって。
 
 指示を実行する弟子たち
 今日の福音は3つの小段落に分けることができます。イエスの昇天を述べる19節(b)が中心に置かれ、この19節(b)を境にして、その前の15−18節(a)では復活したイエスが弟子たちに与えた指示が述べられ、後に続く20節(a´)ではその指示を実行する弟子たちの姿が語られています。この指示と実行は重なっています。

15−18節(a)
行って
宣べ伝えなさい
全世界、すべての被造物に
しるしが伴う

20節(a´)
出て行き
宣べ伝えた
至るところに
伴うしるし

 前半部(15−18節 a)が後半部(20節 a´)に比べて長くなっていますが、これは17節b−18節で「しるし」を具体的に記述しているからです。ですから、15−18節(a)と20節(a´)は完全に重なっていると言えます。このように弟子たちはイエスの指示に忠実に従っています。
 今日の福音の直前(14節)に、イエスは復活を信じることのできなかった11人の弟子たちの「不信仰とかたくなな心をとがめた」とあります。このような弟子たちが宣教者へと変えられるのは、20節のように「主が共に働き」、「(主が)言葉が真実であるのを示した」からです。この言葉は直接的には弟子たちが語る宣教の言葉ですが、彼らは自分の言葉ではなく、主の言葉を語ります。だから、神の言葉が真実であることを示すのは、宣教者を通して共に働いている主イエス・キリストです。そして、言葉が真実であることを示す手段が「伴うしるし」です。

 言葉が真実であることを示す「しるし」
 弟子たちには「しるし」が伴います。この「しるし」は17−18節に書かれている「しるし」ですが、これを行うのは弟子たちを通して働く主イエス・キリストです。
 言葉が真実であることを示す「しるし」は、人々をイエスに招くだけでなく、不信仰のまま宣教に出かけて行った弟子たちをも癒し、変えます。だとすれば、宣教者はイエスを他人に証しするだけでなく、自分自身にもイエスを宣べ伝えていることになります。

 今日の福音のまとめ
 多くの学者によれば、今日の福音はマルコではなく、2世紀の人たちによる加筆だと考えられています。当時の生き生きとした宣教体験がこのような形で表現されています。この記述では、何を宣べ伝えるのか、その宣教内容についてはほとんど触れずに、宣教に伴う「しるし」を詳しく描いています。彼らの興味は「言葉」そのものよりも、その言葉が真実であることを示す「しるし」に向かっています。なぜなら「言葉」が今も真実であることを示すのは、「しるし」にほかならないからです。この「しるし」は奇跡のように目覚ましい形を取ることもあります。しかし、奇跡が奇跡となるのは、そこに主の働きを見るときです。そうでなければ、奇跡はただの不思議で終わります。
 メアリー・ヒーリーは、「マルコによる福音書 サンパウロ社436−437頁」の中で、次のように省察と適用をしています。「……新しい福音宣教に向けて、……ヨハネ・パウロ2世教皇は、最初のキリスト者たちが持っていた情熱を再熱させ、『聖霊降臨の後の使徒たちの宣教の熱意で私たちが満たされるように』と呼びかけました。この起動力には、福音宣教の業の中で、癒しと奇跡の役割の理解を新たにすることが含まれているに違いありません。み言葉を伝えられるとき、その真理を裏付け、またその力を証明するしるしと不思議な業を伴うよう主に求めながら、マルコ福音書の証言は、いずれ信仰を持ってくれるであろうと期待を込めて、信じていない者たちによき知らせを告げる重要性を強調しています」。
2021年5月16日(日)
鍛冶ヶ谷教会 主日ミサ 説教

※ 注(Web担当者より)
本文序盤で「下線+太字」にしている部分は、原文では二重下線ですが、Web上で二重下線にするのは難しいので、下線+太字で代用させていただきました。
また、本文中盤の「15−18節(a)」と「20節(a´)」の部分は、原文(Wordファイル)では四角い枠で囲われていますが、Web上で枠にするのは難しいので、枠なしにさせていただきました。ご容赦を。