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からし種は
どんな種よりも小さいが、
どんな野菜よりも大きくなる
〜 年間第11主日Ｂ年 〜

ヨハネ・ボスコ　林　大樹

　　マルコによる福音
　　　4章26−34節

　今日の福音は神の国についての二つのたとえからなります。このたとえによって、神の国がどのような現実であるかが示されています。

　成長する種のたとえ（26−29節）
　成長する種のたとえは、「神の国」が人間の力ではなく、神の力によって確実に成長して行くことを教えたものです。種が一度土に蒔かれると、「どうしてそうなるのか、人は知らない」（27節）が、芽を出して成長し、「土はひとりでに実を結ばせ」ます（28節）。「ひとりでに」（28節）と訳されている原語は、現在日本語にもなっている「オートマチック」です。原文では28節の冒頭に置かれていて、この点が強調されています。

　からし種のたとえ（30−32節）
　「からし種」は種から油を採るために「畑に蒔かれるもの」（マタイ13章31節）で、茎（くき）と殻（から）は家畜の餌（えさ）になります。ぐんぐん成長して、五メートル近くの高さになり、「木」（マタイ13章32節、ルカ13章19節）のように見えるほどですが、種はごく小さいものです（マルコは、特に小さい点を強調して、「地上のどんな種よりも小さい」と表現しています）。パレスチナでは一番小さいものを表すのに「からし種のように」という表現がありました（これは日本でも「けし粒ほどの」と言うのと似ています）。
　イエスは「からし種」を、「信仰」（マタイ17章20節、ルカ17章6節）や、「神の国」のたとえの中で使っています。決して不安に思うな、たとえどんなに小さく、からし種のように弱々しく見えても、父なる神に対する信頼を失ってはならない。人の目には、無きに等しく、何の影響も与えないと思われても、そこに神のいのちと力が隠されており、土にまかれさえすれば、引き抜くことも、成育を妨害することもできないほどのたくましい成長を遂げるものである、というのです。

　たとえを用いて語る（33−34節）
　33節で「イエスは、人々の聞く力に応じて、このように多くのたとえで御言葉を語られた」と述べます。「たとえ」は一種の秘密であるから、能力に応じて、解くことのできる者も、できない者もいました。イエスは、人々が「たとえ」を聞いて、解けるまで黙想することを求めます。なぜなら、「たとえ」には「神の国の秘密」（マルコ4章11節）が隠されているからです。
　イエスは「聞く耳のある者は聞きなさい。」（マルコ4章23節）と言います。イエスが教えた「神の国の秘密」は隠されていて、私たちの毎日の生活の繰り返しの中に、聖書のみ言葉の中に、神を見、神に聞いて、秘密を解くことを私たちに求めます。…つまり、毎日の生活を、聖書のみ言葉を、じっと座して黙想することを求めています。そのような人に「神の国の秘密」が打ち明けられるのです。

　今日の福音のまとめ
　今日の福音は、マルコ福音書の「神の国」の二つのたとえです。
　「成長する種のたとえ」（26−29節）はマルコ固有のもの、「からし種のたとえ」は三福音書共通のものです（マタイ13章31−32節、ルカ13章18−19節）。そのいずれも、私たちの「神の国」についての間違った考えを訂正し、困難の中にあっても、神の働きに対する深い信頼を勧めたもので、農業の生活から素材を借りています。
　今日の福音は二つのたとえとも「畑に蒔かれた種」から教訓を引き出したものですが、強調点が違っています。成長する種のたとえ（26−29節）は、「神の国」が人間の力ではなく、神の力によって確実に成長して行くことを教えています。からし種のたとえ（30−32節）は、神の国の小さい始めが大きい終わりをもたらす、ということを教えます。事実、神の国は最初イエスを中心とする弟子たちの小さい集団でしたが、やがては全世界に及ぶものとなりました。
　当時のマルコの教会は様々な困難に遭遇していました。そのような状況の中でも教会は「神の国」の福音を宣べ伝えました。イエスは、たとえによって、目に見える現実の奥に、確かに始まっている神の国の現実を指し示します。この神の国の現実をどこまで理解できるかは、聞く者の姿勢にかかっているのです。現状はいかに取るに足らないように見えても、そこには神の力が働いています。私たちが信頼を置くべきなのは、自分の力ではなく、この目には見えなくても、何よりも力の強い神の働きなのです。
　聖パウロが言いますように、（成長するたとえが教えるように）私たちは「パウロは植え、アポロは水を注いだ、しかし、成長させてくださったのは神です」（�汽灰螢鵐�3章6節）ということを知らなければなりません。同時に私たちは（からし種のたとえが教えるように）「御言葉を宣べ伝えなさい。祈りが良くても悪くても、励みなさい。」（�競謄皀�4章2節）という務めを行わなければならないのです。
2024年6月16日（日）
鍛冶ヶ谷教会　主日ミサ　説教

　※「主日の聖書　高橋重幸神父（トラピスト会）著　オリエンス研究所発行」320−321頁を参考にしました。